石油ストーブが登場するまでは
火鉢は家の中で重要な置位を占めていた
炭火や練炭火鉢など いろいろあったが
ウチでは上がり框のところに 大火鉢が置いてあって
部屋に上げる程でもない来客があると
それに炭をついで もてなす
客の相手をするのは 大方 父だったが
父は話しながら 火箸で炭火を あっちに転がし こっちに動かし
手遊びをする癖があった
アルミの灰ならしで 灰をかぶせたり
五徳の周りに 小山を作ったりもした
手を じっと火鉢のふちにかざしているのは
間が持たなかったのだろうか
父は話を短く切り上げることが苦手だった
話が一段落すると 又始めに戻って 同じ話をなぞるのだった
その間中 炭火は火鉢の中を転がされていた
夜 気の合う知人が訪ねて来た時などは
火鉢を囲んで いつ果てるともなく話し込んでいた
朝方 起きてみると 火鉢の灰は掘り返され
種火さえも残っていないのだった
石油ストーブになって
父の手遊びが何に変わったのか
その頃 私は家を離れていたので 知らないままだ