ひと言
三十も半ば過ぎたころだったろうか
子供が同じクラスの母親と 親しくなった
子供のことで相談したいことがあって
「 私 ちょっと 問題を抱えていてね 」
と軽い気持ちで言うと
間髪をいれず
「 離婚?! 」
と 聞き返された
彼女の目のかがやきを見て あっけにとられた
私は 日頃 なにか小さな不平不満は言っていたのだろう
別れたらどんなに清々するか と思っていたのも確かだ
でも 彼女の一言を聞いて
何故か 別れてなるものか と思った
彼女を喜ばせる事はするまい と
それから 幾星霜
別れたいと思った事は数知れず
そのたびに 彼女のひと言を思い出して 自制した
夫婦は別々の人格を持っており
合わないのが当たり前 と分かったのは六十過ぎ
その頃になると 別れるエネルギーが欠乏していた
近頃思うことがある
夫は 他の女性と結婚していたら
もっと幸せに生きられたのではないか と